舞台作品みたく馬の祭りが目に映る
緩やかなカーブで通りを曲がると、そこだけ空気の重さが変わる場所があった。巨大な提灯が並ぶ並木道に現れた、熊本県の馬の祭り会場。
一頭一頭に結われた緋色の飾り紐が風を受け、地面を蹴るたびに振動が身体に伝わる。松明で透けた装束に描かれた文様や、確かな力強さが迫力を生み、現地ではそれをバッチリ味わえます。
他地域で音響を多用した公園内で行われる競演は、スピーカーから流れる太鼓が主役だったし、ある地域では観客参加型の掛け声が、賑わいを作っていた。だが熊本県の馬の祭りは声援よりも、装具が触れ合う小さな音が主旋律。
手入れされた革が放つ匂いと、焚かれた薪が交錯し、歴史を感じさせてくれる。白い天幕下、スタッフが淡々と的を据え直すたび、観る者は静かに引き締まる。
細かな所作が積み重なり、熊本県の馬の祭り全体がまるで舞台作品みたく映った。最後に放たれた矢が的板を割ると、ゆっくり拍手が広がり、余韻が辺りに反響する。
独特な緊張感と、自然な静寂との対比は、過去に訪れた豪華絢爛な行事とは、まったく異なる感動をくれる。
大きな見栄えじゃなく、眼前で交わされる小さな所作ひとつが、ここでしか味わえない魅力を際立たせてると気づかされた。